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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)18413号 判決

原告 日本信販株式会社

右代表者代表取締役 山田洋二

右訴訟代理人弁護士 中村雅男

被告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 小杉公一

主文

1  原告の主位的請求に基づき、被告は、原告に対し、四一万三一三八円及び内金一万円に対する昭和五九年五月二九日から支払済みに至るまで年二九・二パーセントの、内金三〇万八四五七円に対する同年一一月二八日から支払済みに至るまで年二〇パーセントの、内金九万三七三六円に対する右同日から支払済みに至るまで年一八パーセントの、各割合による金員を支払え。

原告のその余の主位的請求を棄却する。

2  原告の予備的請求に基づき、被告は、原告に対し、六五六万七七一〇円及び内金六五四万三九五六円に対する昭和五九年五月二九日から支払済みに至るまで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、六九八万〇八四八円及び内金六五五万三九五六円に対する昭和五九年五月二九日から、内金四〇万二一九三円に対する同年八月二八日から、各支払済みに至るまで年二九・二パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  (本件クレジットカード契約の締結)

割賦購入あっせん等を目的とする株式会社である原告は、昭和五六年四月一七日、被告との間において、被告を会員とする次のとおりの定めによるクレジットカード契約を締結して、日本信販クレジットカード(以下「本件カード」という。)を被告に貸与した。

(一) 被告は、本件カードを使用して、原告の指定する商品(以下「加盟店」という。)において物品を購入し又はサービスの提供を受け、あるいは、原告から金銭の貸付を受けることができる(本件カードを使用してする右のような物品の購入、サービスの提供又は金銭の貸付を以下「本件カードの使用」という。)。

被告が本件カードの使用をして加盟店から物品を購入し又はサービスの提供を受けたときは、原告は、被告に代って、その代金を加盟店に立替えて支払う。

(二) 被告は、原告に対し、前項による立替金又は貸付金及びこれに対する所定の料率による手数料又は利息を被告が本件カードの使用に際して指定した支払回数に均等分割(ただし、端数については、初回に支払うべき金額に算入する。)して、各月五日締め・当月二七日を第一回とし、毎月二七日限り支払う。

(三) 被告が前項の立替金の支払いを怠ったときは、年二九・二パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

2  (被告による本件カードの使用)

(一) 被告は、昭和五七年八月一五日から昭和五八年一二月一〇日までの間、別表(A)「利用明細」記載のとおり、前後二三六回にわたって、本件カードを使用して同表記載の加盟店から同表記載の支払回数及び手数料率によって代金合計六六九万三九五六円相当の物品の購入又はサービスの提供を受け、原告は、その都度、被告に代って、その代金を加盟店に立替えて支払った。

(二) また、被告は、同年一月一〇日から同年一〇月二四日までの間、別表(C)「貸金利用明細」記載のとおり、前後一一回にわたって、本件カードを使用して原告から同表記載の支払回数及び利率によって合計七五万円の金銭の貸付を受けた。

3  (他人による本件カードの使用)

(一) 原告は、その発行したクレジットカードが紛失、盗難その他の事由により他人に使用された場合の損害につき、共栄火災海上保険相互会社外一三社の保険会社との間において、原告を契約者、右保険会社を保険者、被告その他原告とクレジットカード契約を締結した者(以下「会員」という。)を被保険者として、クレジットカード盗難保険普通保険約款による日本信販クレジットカード盗難保険契約を締結している。

そして、本件クレジットカード契約、右日本信販クレジットカード盗難保険契約及びクレジットカード盗難保険普通保険約款によれば、次のとおりの定めとなっている。

(1) クレジットカードの紛失、盗難その他の事由により他人によってクレジットカードの使用がなされた場合の損害は、被告の負担とする。

ただし、その損害の全部又は一部については、被告を被保険者とする日本信販クレジットカード盗難保険の普通保険約款の定めるところによって補填され、また、右保険によって補填されない部分についても、被告に故意又は重大な過失がない限り、原告の負担とする。

(2) 会員は、クレジットカードが盗取、詐取若しくは横領(以下「盗難」という。)されたこと又はクレジットカードを紛失したことを知ったときは、遅滞なくその旨を原告に通知し、かつ、所轄警察官署に届け出るとともに、書面による所定の盗難届又は紛失届を原告に提出する。

(3) 右盗難保険の担保期間をクレジットカードが盗難にあい又は紛失した旨の通知を原告が受理した日の六〇日前以降・受理日の六〇日後までの一二一日間とし、保険者は、クレジットカードが盗難にあい又は紛失し、かつ、他人に不正使用されたことによって会員が被った損害につき、保険金額の五〇〇万円又は担保期間中に他人に不正使用された金額のいずれか少ない金額を限度として、補填の責めに任じる。

(4) 保険者は、会員が正当な理由がなく右(2)の定めに違反したとき又は会員の故意又は重大な過失に起因する損害については、損害を補填する責めに任じない。

(5) 被保険者は、保険金を請求しようとするときは、損害の発生を知ったときから三〇日以内に被害状況等を詳記した損害報告書、所轄警察署の被害届出証明又は盗難届出証明等を添えた保険金請求書を保険者に提出して、保険金の請求をする。

(二) ところで、被告は、昭和五八年一一月二九日、原告に対しては、同月二八日に本件カードを紛失した旨を電話で通知し、また、本件カードの使用状況に不審を抱いた原告から依頼を受けて調査のために被告方に赴いた綜合警備保障株式会社の担当者に対しては、同月二七日に小田急電鉄株式会社小田原線下北沢駅・成城学園前駅間の車内で本件カードを財布ごと紛失した旨を告げ、同月二八日に警視庁成城警察署にはその旨を届け出たものの、原告に対しては、書面による所定の盗難届を提出しなかった。

そして、本件カードの使用がなされたのは、いずれも被告が本件カードを紛失したとする日時以前のことであったので、原告は、被告のために保険金請求手続を採ることはしなかったし、被告も、保険者に対して保険金を請求しないまま保険金請求期間を徒過したものである。

(三) 本件クレジットカード契約の前記の定めによって本件カードの紛失、盗難その他の事由による他人の不正使用による被告の損害が原告の負担とされるのは、右損害について保険金の請求がなされた場合において、右保険で補填されない部分につき、被告に故意又は重大な過失がないときに限ってのことである。

したがって、仮に本件請求にかかる本件カードの使用のうち被告が自らがしたものであることを自認するもの以外のものが紛失、盗難その他の事由による他人の不正使用によるものであったとしても、それによる損害について保険金の請求がなされていない本件にあっては、右損害は、本則に立ち返って、被告の負担とされるべきものである(原告が被告のために保険金請求手続を採らなかったのは、被告が本件カードの紛失時期等について前記のとおりの説明をしたことに起因するのであって、原告にはなんらの責任もない。)から、被告は、これについても、自らが本件カードの使用をしたのと同様の責任を負うものである。

4  (結論)

よって、原告は、被告に対して、右立替金のうち別表(B)「入金充当明細」記載のとおり被告から支払いを受けた立替金及び手数料を除いた残余の立替金合計六五五万三九五六円及び手数料合計二万四六九九円並びに右立替金合計六五五万三九五六円に対する最終の立替金支払期日の翌日である昭和五九年五月二九日から支払済みに至るまで年二九・二パーセントの約定割合による遅延損害金、右貸付金のうち別表(1)ないし(11)「貸金入金充当明細」記載のとおり被告から支払いを受けた元本及び利息(ただし、支払いを受けた利息のうち利息制限法所定の限度額を超える部分については、元本の返済に充当する。)を除いた残余の元本合計四〇万二一九三円及びこれに対する最終の貸付金返済期日の翌日である同年八月二八日から支払済みに至るまで右同割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因事実に対する被告の認否

1  請求原因1(本件クレジットカード契約の締結)の事実は、認める。

2  請求原因2(被告による本件カードの使用)の(一)の事実中、被告が昭和五七年八月一五日に別表(A)「利用明細」記載のとおり本件カードを使用して加盟店の東京毛髪センターから同表記載の支払回数及び手数料率によって代金一五万円相当の物品の購入又はサービスの提供を受けたことは認め、その余の事実は否認する。

被告は、昭和五八年一〇月末頃、本件カードを紛失したが、別表(A)「利用明細」記載の物品の購入又はサービスの提供のうち右以外のものは、これを拾得した第三者が本件カードを不正に使用してしたものである。

同2の(二)の事実は、認める。

3  請求原因3(他人による本件カードの使用)の(一)の事実は、認める。

同3の(二)の事実中、被告が昭和五八年一一月二八日に警視庁成城警察署に本件カードの紛失届をしたこと及び被告が保険者に対して保険金の請求をしなかったことは認めるが、原告が被告のために保険金請求手続を採らなかったことは知らず、その余の事実は否認する。

被告は、同月二七日頃、本件カードを使用しようとしてそれを紛失していることに気付き、たまたま同年一〇月末頃に小田急電鉄株式会社小田原線成城学園前駅・新宿駅間の車内又は新宿駅附近において財布を紛失したことがあったので、本件カードも右財布に在中していたものと考えて、直ちに原告(渋谷支店)に電話でその旨を連絡したうえ、同年一一月二八日に警視庁成城警察署に紛失届をして紛失届証明書の交付を受けてこれを原告に送付し、また、その数日後、原告から送付されてきた往復葉書の返信用の紛失届用紙の所定事項欄に所要事項を記載してこれを原告に送付して、原告に対して本件カードの紛失届をしたものである。

同3の(三)の主張は、争う。

被告は、前記のとおり、本件カードを紛失したことを知って、直ちにその旨を原告に通知するとともに所轄警察官署に届け出、かつ、原告に対して書面による紛失届を提出したものであり、また、被告には本件カードを紛失したことに故意又は重大な過失はない。したがって、本訴請求にかかる本件カードの使用のうち被告が自ら使用したものであることを自認するもの以外については、原告がそれによる損害を負担すべきものである。

三  被告の抗弁

被告は、昭和六三年一二月一二日及び平成元年一月一三日、原告に対して、前記貸付金の返済として各一万円を支払った。

四  抗弁事実に対する原告の認否

抗弁事実は、否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因1(本件クレジットカード契約の締結)の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、先ず、被告が本件カードの使用をしたことを原因とする原告の本訴請求の成否について検討すると、被告が昭和五七年八月一五日に別表(A)「利用明細」記載のとおり本件カードを使用して加盟店の東京毛髪センターから同表記載の支払回数及び手数料率によって代金一五万円相当の物品の購入又はサービスの提供を受けたこと及び被告が昭和五八年一月一〇日から同年一〇月二四日までの間に別表(C)「貸金利用明細」記載のとおり本件カードを使用して原告から同表記載の支払回数及び利率によって合計七五万円の金銭の貸付を受けたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、別表(A)「利用明細」記載のその余の物品の購入又はサービスの提供(以下「本件係争取引」という。)については、《証拠省略》によれば、本件係争取引は、一か月余の期間に合計二三五回の多数回に及び、その過半数は一回当たりの代金が一万九二〇〇円のビール券の購入であって、本件カードの一回当たりの利用限度額を心得た者が換金の目的でしたものであることが窺われ、また、これらの取引の相手方である加盟店も、被告の生活圏を離れた阪神地域に所在するものも含まれていることを認めることができ、明らかに正常な取引ではないことが推認されるのであって、その利用手口からは、偶々本件カードを拾得した者の業とは考え難く、あたかも当時新聞報道等のなされた金融業者のクレジットカード詐欺事件(金融業者が会員に金銭を貸し付けてクレジットカードを預り、これを利用してクレジットカード盗難保険の担保期間内に百貨店等で商品を買い集めて換金し、時期をみて会員にクレジットカードの事故届を信販会社に提出させたというもの。)の事例を想起させるところがないわけではない。

しかしながら、被告は、後にみるとおり、昭和五八年一〇月末頃に本件カードを紛失したものであり、本件係争取引はこれを拾得した第三者が本件カードを不正に使用してしたものであると供述するのみであって、その信用性はともかくとしても、本件係争取引が被告の意思に基づくものであることを積極的に肯認させるに足りる供述部分もなく、単に本件カードの右のような利用手口のみをもって直ちに本件係争取引が被告から本件カードを譲り受けたり担保として預った第三者が行ったものであって、それが被告の意思に基づくものであると推定することはできず、後に説示するとおり、他にはこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件係争取引については、被告が本件カードの使用をしたことを原因とする原告の本訴請求は、理由がないものというべきである。

二  そこで、本件係争取引が他人が本件カードの使用をしてしたものであることを前提とする右取引にかかる原告の本訴請求について検討すると、請求原因3(他人による本件カードの使用)の(一)の事実は、当事者間に争いがなく、本件クレジットカード契約、日本信販クレジットカード盗難保険契約及びクレジットカード盗難保険普通保険約款の各定めを通覧すると、本件クレジットカード契約が「クレジットカードの紛失、盗難その他の事由により他人によってクレジットカードが使用された場合の損害は、被告の負担とする。ただし、その損害の全部又は一部については、被告を被保険者とする日本信販クレジットカード盗難保険の普通保険約款の定めるところによって補填され、また、右保険によって補填されない部分についても、被告に故意又は重大な過失がない限り、原告の負担とする。」としている趣旨は、被告が本件カードを他人に貸与し又は担保に供するなどしてその使用を他人に委ねたような場合においてはもとより、被告が本件カードの盗難にあい又は紛失しこれによって他人が本件カードの使用をした場合においても、自らが本件カードの使用をした場合と同様に、原告に対してこれによる立替金等の支払義務を負うものとするのを原則とする一方で、被告が日本信販クレジットカード盗難保険の保険金請求の要件を充足している場合、すなわち、本件カードが盗難にあい又は紛失し、これによって他人が本件カードを使用したものであって、被告が右盗難又は紛失の事実を知った後遅滞なくその旨を原告に通知し、かつ、所轄警察官署に届け出るとともに、書面による所定の盗難届又は紛失届を原告に提出した場合においては、右盗難若しくは紛失又は損害の発生若しくはその拡大が被告の故意又は重大な過失に起因するものでない限り、担保期間中における他人による本件カードの使用にかかる立替金等のうち保険金額(五〇〇万円)を超える部分の支払義務を免れるとしたものと解するのが相当である。そして、右日本信販クレジットカード盗難保険は、被告が他人による本件カードの使用によって原告に対する立替金等の支払いを余儀なくされたことによって被った損害の補填を目的とする一種の損害保険であるから、被告が右の要件を充足している場合であっても、立替金等のうち保険金額以下の部分の原告に対する支払義務を免れるものではないとともに、被告がなんらかの理由によって保険者に対して保険金を請求しないままに保険金請求期間を徒過するなどしたとしても、それによって被告が原告に対して保険金額を超える部分の立替金等の支払義務の免責を主張することができなくなるものではないというべきである。

また、これらの要件のうち、本件カードの盗難若しくは紛失又は損害の発生若しくはその拡大が被告の故意又は重大な過失に起因するものであることについては原告において、その余の要件については被告において、その立証責任を負担するものと解するのが相当である。そして、右の要件のうち、被告が右盗難又は紛失の事実を知った後遅滞なくその旨を原告に通知したこととの手続要件については、その通知の日がクレジットカード盗難保険の担保期間の基準日となるものであるほか、原告においては右通知に基づいて加盟店に対してこれを通告し、その後においては当該クレジットカードによって信用販売等を行わないように指示して、その不正使用を防止することになるのであるから、クレジットカード制度の信用を保持し、その濫用を防止するためにも、特に重要な意義を有するものである。

三  これを本件についてみると、被告は、その本人尋問において、昭和五八年一一月二七日頃、本件カードを使用しようとしてそれを紛失していることに気付き、同年一〇月二四日頃に小田急電鉄株式会社小田原線和泉多摩川駅・新宿駅間及び東日本旅客鉄道株式会社総武線新宿駅・千駄ケ谷駅間の通勤途上において財布を紛失したことがあったので、本件カードも右財布に在中していて一緒に紛失したものと判断して、原告に電話でその旨を通知し、同月二八日頃に警視庁成城警察署に紛失届をして、その二日後頃、右警察署から交付を受けた紛失届証明書及び原告から送付されてきた往復葉書の返信用の紛失届用紙に所要事項を記載したものを原告に送付した旨を供述している(右のうち、被告が同月二八日頃に警視庁成城警察署に本件カードの紛失届をしたこと自体については、当事者間に争いがない。)。

しかしながら、右の点について被告の本訴における主張は、「昭和五八年一一月初め頃本件カードを紛失した。」、「同月二七日頃、小田急電鉄株式会社小田原線成城学園前駅から電車に乗車後新宿駅到着までの間又は新宿駅周辺において財布を紛失し、その際、他の所持品を調べているうち、本件カードもなくなっていることに気付いた。財布ごと本件カードを紛失したものではない。」あるいは「同月二七日頃、本件カードを使用しようとしてそれを紛失していることに気付き、同年一〇月末頃に小田急電鉄株式会社小田原線成城学園前駅・新宿駅間又は新宿駅周辺において財布を紛失したことがあったので、本件カードも右財布に在中していたに違いないものと思った。」などと、この点についての原告の主張の展開に対応して、次々に変転して一貫性がないものであり、また、これを首肯させるような合理的な理由も見当たらない。

これに加えて、《証拠省略》によれば、原告は、同年一一月二八日頃、本件カードの使用による多数のビール券購入の事実に不審を抱いた大阪市所在の百貨店から通報を受けて、調査を依託した綜合警備保障株式会社の担当者を同月二九日に被告方に赴かせたところ、被告は、右担当者に対して、同月二七日に小田急電鉄株式会社小田原線下北沢駅・成城学園前駅間の車内で財布ごと本件カードを紛失した旨を告げたり、原告に対しては、同月二八日に本件カードを紛失した旨を電話によって連絡するなどしていたものであること、原告においては通常クレジットカードの紛失届に往復葉書の返信用用紙を使用するようなことはなく、また、被告がその供述するような本件カードの紛失届を原告に送付したようなこともなかったことの各事実を認めることができ、また、《証拠省略》によれば、被告は、右の間に阪神地域に所在する百貨店から被告が本件カードの使用をしてセーターを購入した事実があるかどうかについて電話による照会を受けていながら、本件カードの所在を確認するなどの措置をとることもないままに放置したというのである。

これらの事情に照すと、被告の前記の供述は、直ちにこれを信用することはできないのであって、確かに右のような事情だけをもって被告が本件カードを譲渡し又は担保に供するなどして他人にその使用を委ねたものと推認することは困難ではあるとしても、被告が本件カードの盗難又は紛失の事実を知った後遅滞なくその旨を原告に通知したものであるかについては、疑問を容れる余地が大きく、被告において未だこの点についての立証責任を果たしていないものといわざるを得ない。

したがって、被告は、本件係争取引についても、自らが本件カードの使用をした場合と同様に、原告に対してこれによる立替金等の支払義務を負うものというべきである(因に、原告の本訴請求のうち、被告が本件カードの使用をしたことを原因とするものと他人が本件カードの使用をしたことを原因とするものとは請求を異にし、両者は主位的請求・予備的請求の関係にあるものと解するのが相当である。)。

四  最後に、被告の弁済の抗弁について検討すると、《証拠省略》によれば、被告は、昭和六三年一二月一二日及び平成元年一月一三日、原告に対して、本訴請求にかかる貸付金の返済として各一万円を支払ったことを認めることができる。

そして、本訴請求にかかる貸付金については、利息制限法所定の利率を超える割合による約定利息の支払約束はなされていたものの、期限後の損害金の割合についての約定がなされたことの主張、立証はないのであるから、原告は、利息制限法一条一項、民法四一九条一項但書の規定に従い、その所定の割合による遅延損害金を請求することができるにとどまるものというべきである。したがって、被告の支払いにかかる右二万円は、前記の貸付金元本合計四〇万二一九三円に対する昭和五九年八月二八日から同年一一月二七日までの間の遅延損害金の支払いに充当されたものというべきである。

五  以上によれば、原告の主位的請求は、別表(A)「利用明細」記載の昭和五七年八月一五日の東京毛髪センターからの物品の購入又はサービスの提供にかかる立替金残金一万円及び手数料残金九四五円並びに右立替金残金一万円に対する右立替金支払期日の経過後の昭和五九年五月二九日から支払済みに至るまで年二九・二パーセントの約定割合による遅延損害金、貸付金残金合計四〇万二一九三円及び内金三〇万八四五七円に対する同年一一月二八日から支払済みに至るまで年二〇パーセントの、内金九万三七三六円に対する右同日から支払済みに至るまで年一八パーセントの、各割合による遅延損害金の各支払いを求める限度において理由があるので、右の限度においてこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、本件係争取引にかかる立替金残金合計六五四万三九五六円及び手数料残金二万三七五四円並びに右立替金残金合計六五四万三九五六円に対する最終の立替金支払期日の翌日である同年五月二九日から支払済みに至るまで年二九・二パーセントの約定割合による遅延損害金の支払いを求める原告の予備的請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条但書、仮執行の宣言については同法一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上敬一)

〈以下省略〉

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